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平成17年3月 朝日新聞「声」欄への読者投稿

この冬、持病のアトピーが悪化、私は仕事を辞め、体質改善をする為に、生駒山にある療養所で断食を行った。
そこでは「食を断って胃腸を休ませるだけでなく、何もしないで体や頭・心も休ませましょう」と言われた。
仕事も辞めたし、英語の勉強でもしようと本をどっさり持参していた私は、正直、「何もしないなんて時間がもったいない」と思った。
アトピーの人には、神経が過敏で、真面目で頑張りすぎる人が多い、と、よく言われる。
私自身、早く何かを成し遂げなければと、常にあくせくしていた。
もっと肩の力を抜いて生きればいい、とは分かってはいても、なかなか自分ではどうすることも出来ないものだ。

ところが、実際に断食を始めると、だるくて体を思うように動かせなくなり、色んな事に頭や心を働かすことも出来なくなっていった。
最初は、何かしなくちゃと思っていた私も、だんだんゆったりとした断食生活に慣れ、夜は早い時間から眠り、日中は木々に雪が降り積もっていくのをボーッと見たり、窓の外の夜景を眺めて時間を過ごすようになった。
そして、五日間の断食が終わり、六日目の朝、重湯を飲んだ。
次の日には三分粥、その次の日には五分粥を食べた。
そして体内に食べ物が入った分だけ、体を動かせるようになっていった。
「ああ、食べ物によって生かされているんだな」と実感した。
 
二週間の療養生活を通して、私は、これまでのように自分を追い詰めてまで何かをする必要はないと感じた。
なぜなら、食べて、生きていること自体が素晴らしいことだからだ。
自己実現のために頑張る、それはいい事だと思う。
でもその前に、一日3度、おいしくご飯を食べられて、体を動かせて、身の周りを清潔にできて、夜が来れば安心して眠れる。
それ以上に、何を焦る必要があるのだろう。

私たちは、生きるために食べ、食べ物によって生かされている。
言葉にしてしまえば、ごくごく当たり前のこと。
けれど、その当たり前に感謝し、歓びを持って生活することは、意識していなければ忘れてしまうものだ。
私は、当たり前のことに、感謝と歓びを感じて生きていきたい。
 

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